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ねこと暮らしていた

思い出

ねこと一緒に暮らしていた。1990年代の半ばから数年間だから、もうずいぶん前のことだけど。

名前はにゃりん太。「忍者ハットリくん」に出てくる影千代(忍者猫)が「にゃりーん!」て言うのがイカしてたから、そこから名前を拝借しました。その前はトトロって呼ばれていたらしかった。

トトロって呼んでたのは当時近所に住んでた人たちで。トトロは地域のボス猫で、うちに来る少し前からいろんな人にかわいがられてたみたい。真っ白で顔と背中に茶色のブチがある、とてもきれいなねこ。

でもある日にゃりん太はうちにやってきた。通りに面したアパートの外階段を上がったところの2階にある、うちの玄関の前になぜかちょこんと座ってた。「いやいや、うちでは飼えないんだよ」って伝えてみたけど、にゃりん太はずっと玄関の前にいて、しょうがなくドアを開けたらそのまま物怖じもせずに家に入ってきて一言「みゃー」って鳴いた。その頃はまだ半野良のやせっぽちで、しょうがないから牛乳を飲ませて、ねこ缶を買ってきて食べさせて、そのときを境ににゃりん太がうちの家族になった。

にゃりん太と暮らしてた毎日は本当に素晴らしかったな。おれが外から帰ってくると毎日玄関の前で待ってる。「ただいま」って言って一緒に家に入って、ねこ缶とカリカリをやって、落ち着いた時間を一緒に過ごして、夜遅くなるとにゃりん太は出かけていく。集会とかパトロールとかいろいろ忙しいみたいで、こっちは「お務めご苦労さん」って言って送り出す。ちょっとしたら帰ってきて玄関の前で「みゃー」って鳴くから家に入れて、一緒の布団に入って眠る。朝は一緒に起きて出かける。そんな感じの毎日でした。

休日の昼はのんびりしてごろごろして「にゃり、散歩行こか」って言って一緒に家を出て。近所をぐるぐる散歩して、近所の神社で狐の像や木の枝に登って遊んだり、一緒に家に帰って水を飲んだり。

にゃりん太がうちを選んで来てくれたことが誇らしくて、にゃりん太に恥ずかしくない生き方をしなきゃなんて本気で思ってた。なんていうか、ねこを飼ってたわけじゃなくてまるっきり対等で、ただ一緒に暮らしてただけだった。自分にとっての輝かしい日々みたいなものがあるとしたら、にゃりん太が自分を慕ってくれて一緒に過ごしたあの頃のことだと思う。

だけどにゃりん太はある日交通事故であっけなく死んでしまった。あの注意深いにゃりがどうして?って思ったけど、世界の仕組みは本当にわからない。

にゃりん太はおれなんかよりずっと立派で、賢くて、世の中のことをわかっていて、たくさんの仲間に慕われてた。あのやわらかくてあったかいけもののことを、おれは心から尊敬していた。にゃりん太が死んでからずいぶん経つけど、今も思い出すと胸が詰まる。おれもいつかにゃりん太みたいになれたらいいなってずっと思ってる。