夏の魔物がいつのまにかすごくいい

こないだメジャー1stアルバムをリリースしたばかりの「夏の魔物」というバンドについて書いてみたいと思う。

f:id:takuya:20160913235127j:plain

知らない人も多いと思うので説明すると、「夏の魔物」は青森で毎年やってるロックフェス「夏の魔物」を主宰する成田大致(29歳)が率いる6人組。パッと見おかしなビジュアルで、メンバーはグラビアアイドルとか現役プロレスラーとか特撮狂とか、こないだまで素人だった女の子とか、そんな感じのアクの強い人たちが集まってる。ライブでは楽器は弾かずに歌ったり叫んだり踊ったりする。ライブの途中でステージに敵のレスラー(?)が乱入してきてプロレスをしたりもする。

ロック、アイドル、アニメ、ゲーム、プロレス、特撮といった、いろんなユースカルチャーのエッセンスをごちゃ混ぜにして、謎の熱量でパフォーマンスするエンタテインメント集団。っていう説明で合ってるのかな。夏の魔物に似たグループは見たことないし、こんなの誰も思いつかないし、思いついてもやろうと思わないだろう。アイドルフェスにも出るしロックバンドとも対バンするけど、どこに行ってもいつもだいぶはみ出している。

そして、これまでこの人たちはいわゆる音楽シーンみたいなところからはガン無視されてきた。

実はおれも最初はよくわかんなかったの。中心人物の成田大致は、前身になったSILLYTHINGやDPGっていうグループから数えると、基本的なコンセプトはそのままでもう4年以上こんなことをやっていて、おれはよくわからんなりに気になっていて、たまにライブを観に行っていて。そのたび、なんかほとばしる熱みたいなものは感じるんだけど、それぞれのピースがうまくハマらない印象を受けていた。やりたいことはなんとなく見えるけど、やっぱりよくわからなくて、もどかしい感じ。

そんな状況が目に見えて変わってきたのが、1年ちょっと前くらいから。それまで加入と脱退を繰り返して安定しなかったメンバーがやっと固まって、パフォーマンスの純度もどんどん上がってきて、やっと“エンタテインメント”になってきた。

あと新しくできる曲もいちいちよくて、ライブがどんどん楽しくなってきた。今は夏の魔物のライブに行くと胸にグッとくる瞬間がいくつもある。楽器なんて弾いてなくても、そのへんの平凡なロックバンドよりずっとロックだし、非凡な道を選んでるその姿勢自体が観ているこっちを感動させる。

ここで一応言っておくと、このバンドは楽器を弾かないだけじゃなく、メンバーは基本的に詞も曲も書かなくて、作詞作曲やアレンジや演奏を担当するのは超豪華なアーティストの皆さん。それって大物を連れてきて作ってもらってるだけじゃないの?って普通は思うかもしれない。でもそういうことでもないのだ。

f:id:takuya:20160913235628p:plainhttp://mamonodpg.com/release_1stAL/index.html

このあたり、夏の魔物の楽曲がどうやって作られているかは下記のインタビューで明かされてるのだけど、要するに成田大致という人は、膨大なリファレンスを己の中に抱えていて、それぞれのミュージシャンの“必殺技”を熟知していて、それをピンポイントでリクエストして夏の魔物の楽曲を作ってるらしい。「曽我部恵一BANDの『キラキラ!』みたいなイントロで始まってください」「ヒャダインさんのあの曲のサビ前で鳴ってるあの音をここに入れてください」「AメロBメロサビだけじゃないジェットコースター的な展開にして、曲の尺は4分以内で収めてください」みたいな。歌詞についても、例えば大槻ケンヂに「『グミ・チョコレート・パイン』の踏切のシーンのセンチメンタルを描いてほしい」とか言って、書いてもらっているらしい。

natalie.mu

ROLLYが作曲で参加してて、これ明らかにすかんちだろって曲もあったりする。

youtu.be

曽我部恵一の「人に作ってもらったほうが、自分らしさが出るってことはあるもんね。全部自分で作ってるから偉いとか、誰かに書いてもらってるからクリエイティブじゃないってことはないから」っていう言葉が、まあだいたいすべてを表してる。完成形がそこまで具体的に見えてるのに、自分で詞曲を書かずに、リスペクトするアーティストに委ねるっていう成田大致の姿勢が新しい。あとこの曲のドラムはこの人に頼もう、ベースはこの人じゃなきゃとかっていう人選がいちいち的確で。アーティストであると同時に、やっぱり徹底してファンなんだろうなって思う。

youtu.be

そもそもこれほどの大物アーティストが参加してくれてるっていうのは、発注する側に相当の熱い思いがあって、受ける側がその思いに応えたいって思わないと無理だしね。その1点だけをもってしても、成田大致には一目置かざるを得ない。例えば「バイバイトレイン」っていう曲は大槻ケンヂYO-KINGクハラカズユキウエノコウジ、越川和磨、ハジメタルっていうものすごいメンバーが集まって1つの曲を作ってるわけで、こんなのバカな中学生が考えた夢のロックバンドでしょう。

www.youtube.com

メンバー6人について一言ずつ言うなら、アントーニオ本多はいちいち言葉に重みがある。プロレスラーのマイクパフォーマンスは詩なんだっていうことを彼の言葉で実感した。大内雷電は歴戦のベーシストでありながら、このバンドではベースを弾かずにダンスとかラップとかしてるってこと自体が感動的だし、ラップ素人のはずの彼のラップはいつも胸に染みて泣きそうになる。塚本舞は現役グラビアアイドル(グラドル自画撮り部書記!)がなんでこんなに歌えるの?っていうくらい歌がいい。彼女の声の“切なさ成分”が夏の魔物の音楽的な方向性を形作ってると思うし、あと要所要所で見せるセンスのよさや勘のよさも推せる。ケンドー・チャンはミズタマリなんだけど、アイドルとしての身体能力の高さと陽性のキャラクターがこれからのバンドを引っ張っていってくれるはず。鏡るびいはオーディションで最近加入した新メンバー。端正なルックスで一生懸命踊ってるその姿を見てると、可能性しかないし、いい新メンバー入ったなって思う。

そして成田大致はいつまで経っても青森訛りが抜けないところがすごくいい。地方出身者ならではの、キラキラしたカルチャーへの憧れが今でも彼を動かしていて、おれも地方出身だからその感覚よくわかるっていうか。あと彼は「アウト×デラックス」とか出たときにサービストークで「フェスの赤字は親が持ってる山を売って埋めてる」みたいなことを言ってたけど、実際「山はなかった」ってこともインタビューで語ってるんで興味ある人は読んでおいてください。

natalie.mu

今回のアルバムで個人的に好きなのは山内マリコ作詞、曽我部恵一作曲の「東京妄想フォーエバーヤング」と、只野菜摘前山田健一が作った「魔物、BOM-BA-YE 〜魂ノ覚醒編〜」です。特に「魔物、BOM-BA-YE 〜魂ノ覚醒編〜」は、何度か聴いてるとフレーズの断片が頭の中をぐるぐる回り始めるくらい中毒性高いし、「運命をつかめよ(何だってできるんだ)」っていう歌詞も、このバンドのこれまでの軌跡を知ってるだけに、エモい気持ちにならざるを得ない。

www.youtube.com

natalie.mu

今のところ世の中的な認知はまだまだ足りてないけど、夏の魔物はすごくいいバンドだと思ってて。トライアンドエラーを繰り返して、諦めずに続けてきたことによって、いつのまにかよくなってたっていうのが正解かもしれない。

ところで楽器を演奏しないこのグループのことを、ここまでずっと、あえて「バンド」って表現してきたんですが、その理由は彼らのライブを観ればわかるのではないかと。ステージにはドラムもアンプも置いてないけど、そこにある情熱は確かにロックンロールバンドのそれだった。やりきれない衝動を抱えて、抑えきれない焦燥感にまかせて、天下を獲りたいっていう無謀な野望を剥き出しにして。仲間を信じて、この6人ならどこまでも行けるって信じて、周りは見えないままで突き進んでいく感じ。普通のスタイルからはみ出した、こんなややこしいことをわざわざ選んでやってるの、ぜんぜんスマートじゃないし、つまずくことや傷付くことも多かっただろうけど、今となっては正解だったとちゃんと思える。

というわけで、普段はあんまり個別のバンドについてこんなに書いたりしないのだけど、なぜこのエントリを書いてるかというと、夏の魔物はもっと大きくなると思ってるから、そのときに先見の明があったねって言われたくてだな。

メンバー6人全員インタビューはこちらです。これからも追いかけていきたい。

natalie.mu

 

夏の魔物 初回限定盤A(DVD付)

夏の魔物 初回限定盤A(DVD付)

 
夏の魔物 初回限定盤B(2CD)

夏の魔物 初回限定盤B(2CD)

 
夏の魔物 通常盤(CD only)

夏の魔物 通常盤(CD only)